「お待たせー」
「おせーよバカヤロー」
「あ〜 今私の水着に見とれてたでしょ?」
「バカヤロー。あっちのギャルに見とれてたんだよ」
「何それ!」
そんなことを言いながら俺は実際、
エリカの水着姿にくぎ付けになっていた。
まるで別人のプロポーション。水際のエンジェル。
若干尻が垂れているのが気になったが、
さほど問題ではなかった。
エリカの魅力に気づいたのは俺だけではなく、
浜辺にいる男たち全員がこちらに注目しているのがわかる。
「すごい注目されてるな」
「私を独り占めできて光栄でしょ?」
「へいへい。俺みたいな虫けらと一緒にいてくれてありがとよ」
「サイトウは虫けらじゃないもん!」
そんなことを言いながら、俺たちは海に入った。
その瞬間、強い波が来た。
「あぶない!」
エリカを支えたのだが、そのまま顔がかぶさってしまった。
「あ…」
期せずして、二人の唇が触れ合い、
ファーストキスは波の中でになってしまった。
「あは…」
「あはは…」
どちらともなく笑いあい、このまま幸せな時間が流れると思った。
しかし…
「私もう行かなくちゃ」
「え? なんで?」
「これから『パッチギ』の収録があるの」
「なんか変な名前の映画だね。でもそれで売れたら、
俺なんか捨てられちゃうんだろうね」
その瞬間、エリカの顔が険しくなった。
「サイトウのバカ! 私は…ずっとサイトウといたいのに…」
「え…お前…泣いて…」
「別に。海水だよ」
俺はそんな彼女をただ抱きしめた。
俺が24歳、沢尻エリカが19歳の夏だった。