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元売れない芸人の独り言

孤高のコーイチローという芸名で売れない芸人をやっていました。

ポエム「追憶と廃旅館」 今週のお題

「ちょっと…やっぱり帰ろうよ」

「ここまで来て何言ってんだよ! 入るぞ」

「えー」


俺と幼馴染みのアスカは、夏休みを利用して、箱根にある廃旅館に来ていた。
ここには幽霊が出るというもっぱらの噂だった。

近づいてみると、確かに不気味な雰囲気がする。

入ってみると…


「キャー!」


急にアスカがしがみついてきた。


「なんだ…ただのコウモリじゃん」


コウモリが飛び出てきたので、びっくりしたらしい。

しかし…

こんなに近くにアスカがいるのは初めてだ。


「アスカ…お前…」

「や、やだ! 勘違いしないでよ!」


突き飛ばされてしまった。


「なんだよ、俺みたいな野良犬には近づきたくないってか」

「サイトウは野良犬なんかじゃないもん!
サイトウは、私の…」


二人の間に心地いい沈黙が流れた。


「とりあえず進んでみようか…」


その瞬間…


「キャー!」


アスカがしがみついてきた。しかし、さっきよりも距離が近かったため…


「あ…」


偶然唇と唇が触れ合った。

しかしもう、アスカが俺を突き飛ばすことはなかった。
心が通じ合った俺たちは、暗闇の中で何度も口づけを交わした。


「でも…さっきの人影なんだったんだろう」


確かに気になる。

よくよく見てみると…


「あはっ…」

「あははは」

「あっはっは…」


二人で笑い転げた。

なんとそこには、鏡があった。

写った自分たちの姿を幽霊と勘違いしたのだ。

俺たちは手を取り合って笑いあった。
まるではしゃぎすぎてる夏の子供だ。
胸と胸、からまる指。

しかし、アスカがその時間を遮った。


「私、もう行かなくちゃ」

「え、なんで?」

「これから、弐号機の練習があるんだよね」

「…は?」

「だからもう、行かないと」

「なんだか知らないけど、それで売れたら俺のことなんて忘れちゃうんだろな」


その瞬間、彼女の顔が険しくなった。


「あんたバカァ? サイトウは、サイトウは…
私の大事な人なんだよ! ママよりも大事な…」

「お、お前、泣いてんのか?」

「あんたバカァ? 私が…泣くわけない…」


また強がりを言いだす彼女を強く抱きしめた。


俺も惣流・アスカ・ラングレーも14歳の夏のことだった。