元売れない芸人の独り言

孤高のコーイチロー、波乗りコーイチロー、ヒキコモリオなどの芸名で売れない芸人をやっていました。

『グッド・コマーシャル』西野亮廣(幻冬舎)

「世界一の嘘を知っているか?」

という気になる一文から始まるスラップスティックストーリー。

お笑いコンビ・キングコングのツッコミ、西野さんが小説を書きました。

はじめに断っておくと、西野さんは2ちゃんねらーに叩かれたり、
そのポップな芸風が一部お笑いファンに認められていなかったりします。

そんな事情を踏まえた上で、最初に言っておきますが、
この小説は面白いです。

ブログに賛否両論あるのはわかりますし、漫才についても好き嫌いあるかもしれませんし、
ゴールデンになってからの「はねるのとびら」は私も見ていません。

そんな事情を踏まえた上で、やっぱり面白いです。

ざっとのあらすじは、

生活に困ったゴーストライターが、女の家に侵入し、人質にして身代金を取ろうとする。
ところが女は、デブのADの自殺志願者で、殺してほしいと頼む。
これでは人質として成立しない。
そこにもう一人交渉人が現れるが、交渉しに行くころには、
二人は仲良くなってしまっていて、犯人と交渉人という関係が成立しない…

という、古っぽくいうと「群像劇」からスタートします。
今っぽく言うとタランティーノの『パルプフィクション』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』、伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』、劇団ひとりさんの『陰日向に咲く』、湊かなえの『告白』…。

まあ「今っぽく」という表現が今っぽくないですが…。

複数の主人公がいて、それぞれの視点があって、
同じ事件でも感想が全然違ったりしていて、
そしてそれが徐々に交わったり、連鎖するという。

しかしすばらしい小説でした。
伏線の張り方、それが交わるところのカタルシスが素晴らしく、

ぐいぐい読ませるテンポのいい展開にさりげなく作者の哲学が入ってくるところは、伊坂幸太郎を彷彿とさせます。
例えば自殺志願のデブのADの女のパートで…


「人類、皆平等」という有名な言葉があるけれど、それは『皆、平等ですよ』ということなのか、それとも「皆、平等でありましょうよ」という提案の投げかけなのか。
 後の方であれば、人類ってのは平等じゃない、ということが前提だ。アタシはそっちのような気がする。だって、あきらかに平等じゃないもの。容姿や家庭環境で、すでに不平等が始まっているし。ニュースは毎日のように戦争や貧しい国の人々をたくさん移す。一体、人類の何が平等だというの? アタシ達に何が平等に与えられているというの?
 天井から吊るされたロープに目をやって、皆が平等であればアタシはこんな目に…と考えたろころで、ハッとした。
 平等なものがあった。アタシ達が、平等に与えられているものを見つけた。
 死ぬということだ。
 スターも一般人も、金持ちも貧乏も、美人もブスも、最後は結局、皆死んでしまう。平等に与えられた結末だ。今死ななくても、どうせいつかは死ぬのだ。
 どうせ死ぬ。そう考えると、わざわざ急ぐ必要がないような気がしてきて、身体がフワッと軽くなった。
 男はさっき、小説家になる夢、という言葉を使った。こんな状況にまで追い込まれても、まだ夢を諦めていない。まったくのバカ野郎なのかもしれない。
 アタシは、男の話をもう少しだけ聞きたくなった。
「ちなみに犯人さんが書かれた作品というのは?」

いいですよね。暗くなりすぎてないけどディープですよね。

そして、明るく司会をしているイメージをお持ちの方は意外と思われるかもしれないし、
ブログ読者からしたら期待していたことですが、ちょいちょいテレビへの毒を吐きます。


「最近の映画って、ガンとか白血病で何人殺すんだ? って感じじゃないですかあ」
 女は映画の話題になると、急に熱が上がった。そして女のその意見には同感だった。
 クライマックスで人が死んでしまうことが悪いというのではない。それが感動の方程式になって、同時にヒットの方程式のようになっていることが気に入らないのだ。


 それでも地球は回っている。
 変態扱いされていた世界的スーパースターが、亡くなった途端に「キングオブポップ」と評されようと。あげ足を取り合っている映像ばかりを見せられているのに、「政治に興味を持ちましょう」なんていう、無理難題を突きつけられようと。


個人に対する毒は吐かないですが、大きいものに毒を吐いています。

極めつけは、例えや状況などで、お笑い的要素が含まれるところ。
伊坂幸太郎さんもユニークですし、『さらば雑司が谷』の樋口氏も面白い例えをしていましたが、
M-1GP3位の漫才師は、その辺に関してはやはり場数が違います。


 しかし、アタシの人生は常に猪突猛進、その時の直感に従って生きてきた。
 アメリカからの留学生に「ニホン、ノ、クイズ、ヲ、オシエテクダサイ」と言われ、「じゃあ、『ピザ』って10回言ってみて」と、ここぞとばかりに出題したひっかけクイズは、「ピッツァ、ピッツァ」と発音良く答えられ、テンポが乗らなかったあげくに、肘を指して、「ここは?」と言ってみたら、「エルボー」と回答された。


 クロサワは阿呆だし、時折先輩に対してタメ口にもなるが、決して人を見捨てたりはしない情深い女だ。えてして、こういう人間がリーダーであった方が、統率がとれたりするものだ。クロサワの背中に、三国志劉備玄徳の姿が重なった。

そして何より、全ての登場人物の人生や、伏線が一つになるエンディング。
素晴らしい。
本に向かってスタンディング・オベーションをしました。

それは素敵な嘘ですけど、この本が面白いのは本当です。

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